3Dプリンターとは

「3Dプリンターって、最近よく聞くけど、どんな機械なの?」「私にも簡単に使えるのかな?」「何でも作れるの?」
そんな疑問を持っている方はまだまだ多いかと思います。
今回は、3Dプリンターとはどんな機械なのか、どういう仕組みで3Dの造形物を作っているのかなど、紐解いていきます。

1. 3Dプリンターとは「ゼロ」の空間から3D造形物を作っていく機械

縦、横、高さという3次元の要素がある造形物(3D造形物)を作るには、大きく分けて2つの方法があります。

一つは、大きめの材料から削って欲しい形を作ってゆく、切削と呼ばれる方法です。
彫刻や仏像といった文化材の範囲だけでなく、切削は長らく製造業でも活用されてきました。

もう一つは、2次元の薄い平面造形物を積み重ねて立体を作っていく、積層と呼ばれる方法です。
切削法が大きめの材料から削って作るのに対し、積層法は「ゼロ」の空間に1層1層ミリまたはミクロンの単位で平面を重ねて作るのが、大きな違いです。

大きな考え方では、この積層法を用いて3D造形物を作る機械を3Dプリンターと呼びます。

【切削法】 大きめの材料から、必要な部分を削り出して形を作る

切削法

【積層法】 何もない所に1層1層積み重ねて形を作ってゆく。

出っ張った形状の場合は形が崩れるのを防止する為に、サポートと呼ばれる支え付きで出力される。 出力後にサポートを除去して完成。

積層法

2. 3Dプリンターの仕組みSTLファイル

3Dプリンターは機種ごと、材料ごとに積層させる方式が異なりますが、基本的な仕組みは同じです。まずは基本的な仕組みを解説します。

① 3Dデータを準備する

普通のプリンターで印刷するのに元となるデータが必要なように、3Dプリンターも元となる3Dデータが必要です。

3Dプリンターを動かすのに通常よく使われるデータ形式が「STL形式」です。
フルカラー印刷を行うプリンターはSTL形式を使用しない場合がありますが、それ以外は大概どのメーカーの3DプリンターでもSTL形式のファイルを用いて造形します。

STL形式とは、3DCADなどの3Dデータを細かい三角形の集合体に変換したデータ形式です。

最近では多くの3DCADソフトウェアや3DCGソフトウェアがSTL形式に対応しております。
「STL形式のファイルを作る為に特別な作業を行う」というよりは、「保存する時にSTL形式を選択する」というイメージです。
3Dデータを自分で作れない方でも、3Dプリンターメーカーホームページで無料のSTLファイルが用意されていたり、無料のSTLファイル共有サイトを利用してSTLファイルを入手する事も出来ます。

STL1
3DCADで作成したデータ
STL2
STLに変換すると、三角形の集合体になる

② 3Dプリンターの専用ソフト内でSTLデータをスライスする

3Dプリンターは1層1層積層して三次元を造形してゆく為、その層ごとの平面データが必要となります。
3Dプリンターを動かす為の専用ソフトウェアにて、造形の指示を出すのと同時にSTLデータがスライスされて3Dプリンターに送られます。
サポート材が自動で付加される機種の場合、同じくこのタイミングで専用ソフトウェアがSTLデータの形状を判断し、サポートが必要な場所にサポート材料を付加する設定を行います。

スライス前(左)・スライス後(右)
3DプリンターのクライアントソフトでSTLデータをスライスして、1層1層どのように積み上げるのか平面データが作成される

③ 1層1層積み重ねて3造形を行う

②で作成したスライスデータを元に、1層ずつプリントを行っていきます。1層プリントし固めて、その上に次の層をプリントしてまた固める・・・というのを繰り返して3Dにしてゆきます。

1層1層の厚みは15μm(0.015㎜)から0.5㎜まで、機種によって様々ですが、このような非常に細かい単位で積み重ねてゆくため、3Dプリンターはある程度時間がかかる機器と考えてください。
層を積み重ねる手法は、造形材料や機種によって異なり多岐に渡ります。

積層3造形
スライスされたデータを元に、1層1層材料を積み重ねて形を作ってゆく

3. 3D形状を支えるサポート材

3Dプリンターに欠かせないのがサポート材です。何故欠かせないのかというと、3D形状は出っ張った場所と凹んだ場所があります。

出っ張った場所は支えが無い状態で造形すると、当然下に落ちて形状が崩れてしまいます。
これを防ぐのが、サポート材です。サポート材が支えになり、出っ張った形状を崩さないようにします。

サポート材の材質や付き方は、機種やメーカーによって多種多様です。
CubeのようなFDM方式や、光造形で造形する場合は、本体と同じ材質でサポートの細い柱が立ちます。
手ではぎ取ったり、ニッパーのような器具で除去する必要があります。

インクジェット方式の場合は、本体と異なる材質のサポート材料を付加します。造形後にこのサポート材料を除去しますが、その方法は、水圧や風圧で吹き飛ばしたり、水に溶かしたり、熱で溶かしたりと機種によって特徴があります。

サポート材の除去は、3Dプリンター選定の隠れた大きなポイントです。

3Dプリンターがあれば何でも作れるようになる?3Dプリンターは日本の職人文化を脅かす?
いいえ、それは違います。

3Dプリンターは『便利な工作機械』です。
今までの工作機械よりも、形状の制限が少なく自由度が高い為とても注目されていますが、3Dプリンターで何でも作れる訳ではありません。

例えば、掃除機を構成する部品を作る事は出来ますが、「ゴミを吸い取る機能を持った完成品の掃除機」を作る事は出来ません。
または、一見掃除機の形の物を再現する事は出来ますが、現時点ではそれはあくまでモックアップであり、「イメージ」です。
人形や各種模型のような、見るための物を作るのであれば、3Dプリンターで作った物が完成品になり得ますが、一般的には何かしらの人の手が必要になります。

材料についても現時点では樹脂が中心であり、使える材質には限りがあります。
金属で造形が出来る機種もありますが、機械が大変大きく、価格も数千万から数億という家を買うより高い金額の物になってしまいます。

3Dプリンターは「作りたい物を、今までよりも作りやすくする為の便利な工作機械」です。

また、「3Dプリンターは日本の職人文化を脅かす存在だ」という意見が出る事がありますが、そんな事はありません。
3Dプリンターは、3Dデータの寸法に近い数値で自動で物を作る機械ですので、物を見つめながら繊細な調整を行う職人文化とは方向性が異なります。
『寸法では測りきれない基準で良い感じに仕上げる』というのは、感性を持つ職人さんにしか出来ない仕事です。
それどころか、職人文化や伝統工芸を守り、後継する為に3Dプリンターが活用される例も増えています。
過去の巨匠の作品や、師匠の作品を3Dスキャナーでデータ化し、そのデータを元に3Dプリンターで複製品を作成して若手の職人の育成に使用するのです。

複製品ですので、どんどん触って研究をしたり、様々な角度から観察をしたり、見本として長期間手元に置いて同じ形を作ってみたりと、壊すまたは汚す事を恐れて今までは出来なかった育成内容が、3Dプリンターによって可能になりました。

3Dプリンターは形状の制限が少ない為、「思い描いた物を作りやすくしてくれる」機械です。
最近では、フルカラーのプラスチック造形物が作れる3Dプリンターや、ゴムのような柔軟性のある素材が使えるプリンターなど様々な3Dプリンターが登場し、作れる物の幅は更に広がりました。

製造業での試作品という用途だけではなく、使う人の発想次第で幅広い可能性を秘めている機器だと言えます。